先生

教職員の異動人事が先日の新聞に掲載されていて、そこに恩師の名前を見つけた。どこの学校にいるのか分かれば会いに行こうと、しばらく前から思っていて、なので見つけられたことは幸いだったが驚いたことに、その名前は退職者の欄に掲載されていた。えっ、どういうこと?と一瞬、意味が分からなかったけどそうか、俺はもう45歳だった。先生も定年になるわな。たぶん自分が18くらいの時に八幡市民センターのエントランスで、ばったり会って短く言葉を交わしたのが最後だと思う。俺の脳内にある先生のイメージはその時の姿で、そのまま老いることがない。しかし現実には、俺の頭髪もずいぶん減ってしまって、八幡市民センターは既に取り壊された。そのことに、なんだか頭がくらくらした。退職なさったと知ったからには一言、お疲れさまでしたと伝えたくなった。なので昨日の仕事の合間に、先生の家まで行ってみることにした。当時、皆で遊びに行ったことがあって、だいたいの場所は分かっている。手ぶらはナンだし、かといって菓子なんか持っていくのも無粋な気がして、途中で花屋に寄った。おじさんが一人でやってる花屋。男が男に作ってもらった花束を、男に贈るというのが、なんだか素敵なことに思えて。予算はあえて控えめにして、小さく作るように依頼した。出来上がった花束を渡してくれながら店主は「可愛いね。これくらいが一番いいね」と言った。俺もそう思った。細い路地を入り込んだ先に先生の住む家はある。駐車スペースがなさそうだったので、かなり手前に車を停めて徒歩で向かった。家はすぐに見つかって呼び鈴を鳴らしたけれど、応答はなかった。どうやら留守のようだ。「また出直すかな」と思って帰ろうとしたところ、表通りを掃除していた老人が、預かりますよと申し出てくださった。聞くと隣のご主人で、その家は先生のご実家らしい。つまり老人は先生のご尊父だった。よかった、ああ良かった。名刺にひと言書いて、花束と一緒に渡してもらうよう頼んだ。そうして後日に手紙でも書こうと思っていたところ、夜になって先生から電話を頂戴した。しばしの歓談。喜んでいただけたようで、とても嬉しかった。再会を約束して通話を終えた。ありがとうございます。おつかれさまでした。食事に行きましょうね

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